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樹のおもいで

伐り倒した大きな黐の樹(モチノキ)の子供が

雪見燈籠の背丈を超えるほどになった

これまでは空が見えないほどに

茂った葉のなかから さまざまな

小鳥の声が響いてきたものだったが

樹が無くなって彼らは散り散りに飛んで行った

一年経って 春

時折 庭が騒がしくなる時がある

部屋の中から聞いていると

その時によって その声の調べが変わっている

ある日ふと 窓から覗いた視線の先に

白黒の羽根の鳥が駆けっこをしていた

飛ぶのではなく 地面を走るその姿に

思わず微笑んでしまった

あちこち走り回って 地面の上で

何かを啄んでいる

草の実なのか 落ちた木の実か 小さな虫か

そして今は かなり大きくなった

かつての大きな黐の樹の子供の梢でも

小鳥たちが飛び交うようになった

隣のまだ若い八重桜の枝にも

今にも倒れそうな百日紅の古木にも

飛び渡って鳴き交わしている

そして秋には小さな木の実を啄んでいる

日々の営みのなかで 樹々は

無くてはならないものだ

ほとんど生そのものになっている

幼い頃に そこで過ごした庭の木々たち

子らと共に 生活を共にした幾つかの庭

いずれの時も 常に共に在った

幾つもの いのち

木々も 小鳥も 虫たちも

それぞれに 輝いていた

いのちある限り 共に生きて

全うすることだけが

すべてのいのちの願い

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