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惟 yi 紫野京子のWebsite
御影上水
細い水路が 絶えまなく流れつづけていた
誰もいない高原の道に水音が響く
静かに降りつむ
かつら けやき みずなら ……
時折 音立てて落ちる 栃の葉
あざやかな光芒が
すでに褪色の色合いを纏って現れる
何十年も前に ここを訪れた時は
すべてが雪で覆われていた
ここに住んでいた人も 今はもう鬼籍に入り
無人の家のさびれた扉には 南京錠が揺れている
閉ざされた扉が物語る
過ぎ去った日々と 人の存在の虚しさ
鮮やかな紅葉の奥にある
腐敗と 消滅
それでもなお パスカルの賭けに *
与(くみ)することができるか
それが今 私の唯一の命題
*「パスカルの賭け」は、パスカルの『パンセ』の中に書かれている。
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